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2017年8月16日 (水)

(自作小説)Convex Grind〜旋風のハガル〜 3

 帽子、メガネ、マントを身に着け、鬼薙をケースにしまうと、痛む体を引き
ずりながら坑道を抜け、ハガルはようやく表へ出た。
 日はもう落ちていた。火照った体に、夜風がとても心地良い。大きく息を吸
い込み、「ふぅ」と吐き出す。
 「痛ぇ!」
 脇腹を押さえながら呻いた。身体の傷はある程度治ったのだが、骨折は時間
がかかる。ハガルの場合、所詮生身の人間が母体なので、こうなってしまうの
は仕方がない。
 「ハガル君!良かった、無事だったのか」
 横の方から声がした。この声と口調はオードのものだ。どうやらオードも、
人質になっていた鉱山の人達を、無事に助け出せたらしい。姿が見えないよう
なら加勢に行くつもりだったが、どうやらその必要はなさそうだ。
 「ああ、そっちも上手くいった・・・」
 その後に続くはずの「みてぇだな」は、ハガルの中に飲み込まれてしまう。
代わりに別の言葉が生まれた。
 「・・・見張りのキメラにやられたのか?」
 ハガルが問う。
 「ああ、さすがにちょっときつかったよ。1体だけだったからこの程度で済
んだけど・・・」
 オードはこの程度と言ってのけたが、とてもそうは見えない。顔と上半身の
右半分には、何重にも包帯が巻きつけてあった。赤い染みが付いていることか
ら、今も出血していることが分かる。恐らくだが、右目はもう駄目だろう。
 (無傷で済む訳がねぇとは思ってたけど、こうして見るとやっぱつれぇな)
 ハガルの表情が曇る。
 それを察し、オードは明るい声で断言した。
 「いいんだ。これは僕が選んだ道なんだから」
 その表情に迷いはなかった。とても誇らしげな笑顔だ。
 「そっか・・・分ぁった」
 ハガルも笑顔で応じる。
 「んじゃ、俺は帰るわ。報酬は紹介状に書いてある、俺の口座に振り込んど
いてくれ。・・・あっ!後、ハンター協会と警察には、ちゃんと説明してくれ
よ。じゃなきゃ、俺が犯罪者だ」
 今回の事件の依頼者はそもそもグレイだ。そしてハガルは、そのグレイを殺
してしまっている。当然、事情を説明できる者がいなければ、ハガルは逮捕さ
れてしまうだろう。
 「大丈夫。僕の方から説明しておく。証拠も残ってるし、問題ないはずだ」
 オードは鉱山を見ながら言う。鉱山の中にあるグレイの研究施設、その全て
が証拠という訳だ。
 「それもそうだ。そんじゃ、元気でな」
 ハガルは踵を返す。
 「あっ!ちょっと待ってくれ。君から借りたナイフ・・・」
 オードは腰に着けていた、あのナイフに手を伸ばす。
 「いいよ、餞別だと思って貰っといてくれ」
 ハガルは振り向かずに言う。そのまま右手を小さく振りながら歩いていった。
 「ありがとう、ハガル君」
 
 ハガルは、鉱山の入り口に停めておいたバイクの傍まで来ると、サイドカー
の側面に、鬼薙を入れたケースをベルトで固定した。
 「よいっしょ」っとバイクに跨り、懐から金属製の小さなケースを取り出す。
 それを開けると、中から微弱な冷気が漂ってくる。常温より、少し温度が低
くなっているようだ。
 その中に並んでいた6本の注射器の中から、2本を取り出す。その注射器の
中には、赤い液体と、翡翠色の液体が満ちていた。
 それを、左手に注射する。
 液体の正体はワーウルフの血液と、液化した魔法石である。キメラは食事以
外に、合成材料の生物の血液と、力の源である魔法石を、定期的に補給しなけ
ればならない。これを怠ると徐々に身体が腐っていく。
 「まぁ、何とか初仕事完了だな。しかしのっけからこれじゃ、先が思いやら
れる」
 2本とも注入し終えてから、バイクに鍵を指し込み、エンジンをかけた。
 「さて、宿に帰って寝るか」
 ハガルはバイクを走らせる。ライトが一条の閃光となって、闇夜を切り裂い
ていった。
 それからしばらくして、人々の間で、ある噂が囁かれる様になった。
 曰く、魔術師にたった一人で戦いを挑むハンターがいる。その剣の腕は凄ま
じく、魔術師が作り出した異形のモンスターを、一刀のもとに切り伏せるとい
う。その名はハガル・グランシア。通称、旋風のハガル。
 だが所詮は人の噂。事実と違う箇所が1つや2つは出てくるものだ。
 「よぉ、旋風のハガルって知ってるか?」
 「知ってるよ。凄腕のハンターだろ。何でも、黒髪の綺麗な美少女らしいな」
 ・・・正しい噂が広まるのは、一体いつになるのだろうか?
 補足
 
 このエルトシューレ王国は、合計8つの列島から成り立っている。その中で
も最南端にあるこの島は、数々の山がひしめき合い、鉱物資源の宝庫と言われ
ていた。
 
 いかがでしたか?
 冒頭でベルセルクのような剣劇ファンタジーを意識したと書きましたが、ただの人間が巨大な剣を振り回して戦えるはずがない。だったらファンタジーらしく魔法使いを登場させて、その魔法使いに作られたキメラを主人公にしようと考えました。
 それから肉付けを行って、読み切りの内容にふさわしい流れを考え、描きたい描写や場面を頭の中で想像し、後は手直しを加えながら書き進んでいきました。
 この歳になってから改めて読むと、ちょっと恥ずかしいものがありますね(^^;)

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